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    + GG(ガレージゲーム)シリーズV

V.Naked Run  No.1  

 ガレージゲームーとんでもなく危険で・・・でも、凄くエキサイティング。
どんなゲームも勝たなければ面白くない。だが、ここでは、そんな甘っちょろいもんではなく、もっとシビアだ。勝てば何十万という金が手に入るが、負ければ一銭にもならず、評価が落ちていく。『一ッ星』にでも落ちれば、体で思い知ることになる。
 ウォーミングアップしながら、今日の対戦チームのコンディションを探るのは当然だ。大人びた、かなり造りの良い顔の沢口が、肩までの茶髪を掻き上げた。
「パンサーのやつら、調子いいみたいだぜ」
 パンサーの三人が次々にレイアップシュートをリングに置いている。マットにうつ伏せて、背筋運動をしていた式場和巳が、起き上がり、大きめの目をグリッと回して、自信たっぷりな顔をした。
「俺たちもベストだ」
 奥住が優しい面ざしを綻ばせた。その時、ガレージの鋼鉄の扉が開いた。
「チュース!」「おはようございます!」
 運動部風やギョーカイ風の挨拶が飛び交う。その中をチャコールグレーのスーツにアイボリーのトレンチコートをマントの様に肩から掛けた長身が抜けていく。ちょっと見には痩せているようだが、実はけっこういい筋肉が貼り付いていることを和巳は知っている。
 オーナーはすぐに事務所に入っていった。それをファルコの室生が追っていく。中でオーナーに話しかけていた。沢口がけげんそうな顔をした。
「何話してんだ、オーナーと」
・・・それは、俺が言いたい。
 しかも室生がオーナーに触れそうなくらい近づいている。突き飛ばしてやりたい。背を向けていた室生がちらっとこちらを見た。和巳は直感的に自分を見たとわかった。例の如く体が即、反応する。
「おい!どこいくんだよ!」
 沢口が叫ぶ。和巳は事務所に飛び込んでいた。
「室生!」
 いきなり入ってきた和巳に室生も驚いた様子だったが、すぐに鼻先で笑った。
和巳もかっとなって飛び込んだものの、オーナーの前ではうっかりしたことは出来なかった。オーナーが安仁屋に向かって顎を引いた。安仁屋が和巳を促した。
「ちょっと、出ろ」
 付いていく。室生も出ていった。安仁屋は心配そうに窺っている奥住と沢口を手招いた。三人を前にして安仁屋が腕組みした。
「今、室生から要請があったんだが、メンバーの三分の二が賛成しているっていうから、オーナーも承知した」
 何のことか、さっぱりわからない。オーナーに何か要請するなんて話は聞いていない。自分たちの知らないところで話が進んでいたようだ。安仁屋が大きなため息をついた。
「ゲームでのダンク、禁止だとよ」
 和巳がガラス窓の向こうを見た。オーナーが背を向けていた。沢口が怒った。
「あいつら、式場にカマされたくないもんだから、そんなこと 」
 和巳が加入する前のメンバーの平均身長は一七〇を切っていた。一番長身は、ファルコの道原と沢口の一七六センチだ。ソニックの古谷などは一五八センチしかない。公式ゴールより十センチ低いスト・バスのゴールでも、一八〇はないと、ダンクはきつい。
「禁じ手作るなんて・・・」
 奥住も険しい目をした。室生たちは他のメンバーが出来ないような高等技術で勝ってきたのだ。それなのに、自分たちが出来ないからって禁じ手にしてやらせないようにするなんて、卑怯だ。和巳もカッカしてくる。去り掛けた安仁屋が足を止めた。
「そうだ、レイダーの三人は禁止に反対したってよ」
・・・あの三人が・・・
 昨日はいい練習ができた。その礼なのだろう。いいとこある。
 安仁屋が言った。
「ダンク使わねぇでも勝てるってとこ、見せてやんな」
 安仁屋に励まされるなんて、意外すぎて、何かこそばゆい。沢口も引きつった。
「何か悪いもんでも食ったんじゃねぇの?」
 安仁屋が照れ隠しか、怒り出した。
「何だよ、その言い草は!?クソガキ共が!」
 プイと行ってしまった。奥住が手にしていたボールを突いた。
「あいつらに、禁じ手なんて無駄だって、思い知らせてやろう」
 さっと走って行く。沢口が目を丸くした。
「超珍しー、あいつが怒るなんて。よっぽど頭に来たんだな」
 和巳が奥住を追いながら、ガラスの向こうに目を遣った。ダンクなしでも勝てるところをオーナーに見てもらおう。一層力が入っていく。
 観戦スタンドに上がった客人たちの着席が終わった。安仁屋がマイクを握る。
「今宵も白熱したゲームをお楽しみ下さい!!」

 いよいよ、月二回の金曜の夜、ガレージ・ゲームの始まりである。
 第一試合ーソニック対ブレード。
奥住が二チームの解説をしてくれる。実力的にはほぼ互角の両チームは、いつも伯仲したゲームを展開する。ソニックは、『三ッ星』の戸松の個人技で切り抜けるワンマン・チームだ。対してブレードは、小刻みなパスワークのコンビネーションで、中に入り込んで行って、ゲームを組み立てていく。ただし、ブレードの追川にはアウトサイドシュートもある。
「チームの格は、両チーム共に三番だ」 
 和巳が顎先を指で摘んだ。
「ファルコが一番でしょう?」
 奥住が頷いた。
「ああ、パンサーが二番で、レイダーが五番だ」
「えっ!?じゃ・・・ヒーツは六番・・・」
 思わずのけ反る和巳に沢口がぶうっと膨れて指で和巳の胸を突ついた。
「五番だよ、ゴ、バ、ン!」
 横にいるパンサーが、あざ笑っている。和巳が今に吠え面かかせてやると、睨み付けた。奥住に尋ねた。
「『四ッ星』の奥住サンがいても、そうなんですか?」
 急に沢口が顔を背けた。その様子からしてよっぽど沢口たちが足をひっぱっていたようだ。奥住はゲームの方に目を向けていた。
「上位二チームはともかく、他の四チームの差ほとんどない。俺が『四ッ星』なのは、室生を止めるディフェンスが評価されてるんだと思う。ファルコ以外のチームは、オフェンス時俺にダブルチームで当たってくるから、そうそうポイントゲットできないよ」
「ダブルチーム・・・」
 和巳が呆れた。ダブルチームとは、一人のオフェンスに二人がかりでディフェンスすることだ。つまり、オフェンスの一人は、全くのフリーになってしまう。にもかかわらず、そうしたディフェンスを敷くということは、そのオフェンスさえ止めれば、後の二人は恐くないと思われているのだ。先日のレイダー戦の時は、すぐに和巳の力がわかったから、マンツーマンディフェンスにしてきたのだろう。安仁屋がゲーム終了のホイッスルを吹いた。
「25対22でソニックの勝利です!」
 ソニックの三人が、観戦スタンドに向かって両手を振った。大きな拍手が起こっていた。

 十分間の休憩の後、第二試合ーパンサー対ヒーツが始まった。
コインで先攻後攻を決め、奥住がリセットラインに立った。奥住がその場でゆっくりとドリブルをする。左手にいた和巳が、パンサーの大塚をかわして、正面に入ってきた。奥住が、すぐ間近に貼り付いた来たディフェンス阿部を見たまま、右側にパスを送り出した。ノールックサイドパス。受け取った和巳が、足を止めずに、ワンステップで向きを変える。追ってきた大塚と交差して、フリースローレーンを割って入った。すでに阿部と杉原がコース上に入っている。さすがに格二番。対応が早い。和巳も無理せずに足を止める。二人の向こうに沢口がいた。ミドルレンジのいい位置だ。しかも、ノーマーク。和巳が両手でボールを上げる。観戦メンバーの中から声が上がる。
「強引!!」
 ディフェンスの二人はブロックに飛んでいた。和巳が素早くボールを下げる。二人の足元に叩き付けて、沢口にパスした。だが、沢口はドリブルでゴール下に近づこうとした。想定していなかった和巳が怒鳴った。
「バカ!そこから打てよ!」
 すでに、大塚が沢口をマークしてしまった。沢口が伸び上がってシュートを打とうとしたところを叩き落とした。
「あっ!?」
 ボールは点々とする。阿部が取りにいく。和巳も追う。だが、阿部が一足先に拾い、ゴール下の大塚にパスした。大塚があっさりとネットインさせた。
「ヤッホー!!」
 一七二センチ、パンサーの中で一番長身の大塚が飛び上がって喜ぶ。和巳が呆然とした。確実に得点をゲットできるはずだった。気を取り直す間もなく、奥住が、ボールを運び始めた。和巳がハイポストから内に入ろうとするが、大塚が塞いだ。左右に体を滑らすが、振り切れない。沢口のチャンスロスが悔やまれて、動きを鈍らせていた。
「ちぃっ!」
 和巳が悔しがると、大塚がニッと笑った。奥住が阿部から逃れて来るが、すかさず杉原が対してきた。かなりゴール近くにいた沢口に渡す。大塚がすっと和巳に背を向けた。沢口がそのままジャンプシュートする。だが、リングに当たって撥ねかえった。
「リバウンド!」
奥住が指示を飛ばす。和巳が慌てて大塚の前に入ろうとしたが、まったく間に合わない。大塚に取られていた。アウトの阿部に移って、ノーマークの杉原にパス、シュートが決まった。
 和巳が沢口に詰め寄った。
「なんでノーマークで二本も続けて外すんだよ!」
 沢口がミスをなじられて、ムカッとなった。
「うっせぇな!おまえのほうこそ、ちゃんとリバウンドとれよ!大塚よか十センチも高いだろう!!」
 こうなると売り言葉に買い言葉だ。
「あんなイージーミスしといて言えるかよ!」
 ボールを出そうとしていた奥住が叫んだ。
「何してるんだ!早く位置につけ!」
 二人が左右に散る。和巳が奥住の後ろを通る。奥住が後手でボールを投げた。バックスルーパス、トリッキーで鮮やか。和巳が、横につく大塚を抜いて、ゴール内に突っ込んでいく。沢口がハイポストに入り、奥住も追っていく。阿部と杉原が和巳を止めに入る。右から来る杉原を避ける。しかし、さらに前からぐっと迫る阿部。シュート体勢に見せかけてブロックに飛ばそうとしたが、阿部は引っかからなかった。
「見え見えだよ!」
 阿部がボールを奪おうと手を伸ばす。ゴール下でノーマークの沢口が合図している。だが、二本続けてのミスが頭にこびりついている。和巳は送らずに強引に突っ込んだ。当然来ると思っていた沢口が怒った。
「式場、おまえ!!」
 和巳が走り込みながら、レイアップシュートしようとした。すでに大塚が傍に来ている。ボールを掲げる前に叩き落とされた。ボールは阿部がゴールした。周囲がどっと沸く。レイダーの本村が心配そうにしている。
「どうしたのかしら、式場君、あんなもんじゃないはずだけど」
 佐久間が、眉間に皺を寄せて、つぶやいた。
「ああ、確かに変だな」
「クソッ!」
 和巳が苛立ちを吐き捨てた。次の二本はなんとか奥住が決めたが、後が続かない。ヒーツはリズムが掴めないままに前半十分終了時点で、パンサーに七ポイント先行されてしまった。

 
 
 


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